最終更新日:2022.03.23
公開日:2022.03.23
- #基礎知識
EC物流における倉庫内オペレーションの最適化とは?① ~Amazon物流システム構築経験者の考察~
はじめに
近年EC市場は、BtoBからBtoC、CtoCと市場規模も拡大しています。新型コロナウイルス禍では外出することなく買い物を非接触で済ませる事ができることから利用者が増大しました。物流については、既存流通業とは異なる課題・ニーズがあることも確かなことからECビジネスの成否を握っているというのが実状です。
ドライバー不足等の深刻化により「モノが運べなくなる」物流危機が叫ばれる一方、ECプラットフォーム間の競争が激化しており、より良い商品配達の方法により物流システムを構築できることは今後のECビジネスにおける優勝劣敗を決定づける要素となるに違いありません。
そこで、今回から数回にわたり、現状のEC物流の特長や実態を再確認することにより、ピンポイントとなる倉庫内オペレーションの最適化のための設備投資や運用の仕方などについて考えていきたいと思います。
本稿は、かつてアマゾンジャパン(同)に在籍し、「Amazon」競争力の源泉とも言うべき最先端の物流システムを構築した経験を持つブリッジタウン・エンジニアリング(株)〔https://www.brtown.com/〕代表取締役の渡邊博美氏と技術本部長の関根実氏にインタビューした内容をベースに構成しています。自社EC物流における最適な倉庫内オペレーションの在り方を明確化するきっかけにしていただければ幸いです。
EC市場の現状と物流における課題について
「令和2年度 電子商取引に関する市場調査」(経済産業省、2021年7月公表)によると、2020年における我が国の物販系分野のBtoC-EC市場は前年比約22%増の12兆2,333億円になっています(図表1、2)。2013 年は 5 兆 9,931 億円でしたから、わずか7年間で市場規模が約2倍に拡大したわけです。Amazonの日本事業も「2020年度の売上高(日本円ベース)は前年比25%増の2兆円超に達している。米国事業のそれは毎年前年比30%以上のペースで伸びているが、我が国のEC市場の拡大推移と重ねて見れば、Amazonの日本事業にも相当勢いがある」(渡邊氏)ということです。
例年にも増して2020年に市場が急拡大した最大の要因は、新型コロナウイルス禍での巣ごもり需要が拍車をかけ、これまでECで買い物をしてこなかった消費者層もこの期間にECを利用するようになったことが大きく、新型コロナウイルスの感染対策が進み、コロナ以前の生活に戻っても、ECを利用することの“便利さ”という経験から、特に物販系分野のBtoC-EC市場は今後も成長を続けるものと思われます。
物流も現状の市場の急拡大に対応するものに整備していく必要に迫られている状態で、ECプラットフォーマーやEC物流を受託している3PL事業者では、急激に膨らむ物流量に対応する準備を進めても生産年齢人口の減少に加え、「働き方改革」に伴う一連の労働法改正の影響により、特に物流倉庫における労働力不足が課題となっています。その解決先の一つとして自動化設備の導入が挙がっていますが、その導入が必ずしも期待した通りの生産性向上につながっていないとの声も聞こえます。倉庫現場の悩みは尽きていないというのが実情です。
図表1 物販系分野のBtoC-ECの市場規模
出所:経済産業書「令和2年度電子商取引に関する市場調査」より
図表2 物販系分野の BtoC-EC 市場規模及び EC 化率の経年推移(市場規模の単位:億円)
出所:経済産業書「令和2年度電子商取引に関する市場調査」より
EC物流倉庫における自動化設備導入の課題
特にEC物流を受託している3PL事業者は多くの企業から様々な商品を受け入れて保管し、オーダーが入れば即座に仕分け、出荷。倉庫内オペレーションを効率化するためには自動化設備の導入が欠かせない状況になっています。ただ、この自動化設備の導入も簡単かつ単純なものではありません。3PL事業者が自動化設備で倉庫内オペレーションを効率化するためには、梱包箱のサイズや個別仕様の伝票などのツールの標準化も必要です。この標準化の施策を欠くと自動化設備の効果を十分に引き出すことができません。ただ、多くの企業から様々な商品を受け入れている3PL事業者にとって標準化の壁は厚く、自動化設備導入において当初期待した効果が得られないというケースも出てきます。
Amazonでも「EC物流業務を総合的に請け負うサービス『フルフィルメント by Amazon(FBA)』を展開しており、倉庫の半分以上を他社商品が占めるほどに受託件数が増えていると推測します」(渡邊氏)ということですが、他社商品の倉庫内オペレーションについても「自社商品と同じ手法が適用できるローコストオペレーション体制が構築されている」(同)。Amazon保有の最新自動化設備を活用した効率化の恩恵を委託企業はそのまま受けられるという点でも優位に事業を展開できる訳です。
もっとも、EC市場における物流量の増加は「前年比で10%くらいであり、既存体制でもある程度対応できる伸び率だが、その手法が分からないという現場が多く、物流がEC事業成長のボトルネックになっているケースも少なくない」(関根氏)といいます。そのうえで自動化設備を導入する際には「現場の課題と目的を明確化しなければ十分な導入効果は得られない。現場スタッフにも自動化設備をきちんと使い切るという意識と準備が必要であり、主体性を発揮することが望ましい」(関根氏)ということです。
自動化設備の選択と成功のカギ
物流倉庫で導入する自動化設備は、マテリアルハンドリング(マテハン)機器とロボットのいずれかの選択になります。マテハン機器、ロボットのそれぞれの主な機種は以下の通りです。
●主なマテハン機器
フォークリフト、ハンドリフト、垂直搬送機、コンベヤ、パレタイザ・デパレタイザ(機械式)、移動ラック、自動倉庫、自動保管・出庫システム、ソーター、デジタルピッキングシステム
※包装機:自動製函機・封函機、梱包機、ストレッチ包装機など
●主なロボット
パレタイザ・デパレタイザ(ロボット式)、AGV(無人搬送車)、AMR(自律走行搬送ロボット)、ピッキングロボット、仕分けロボット、棚卸ロボットなど
近年はマテハン機器の中にもロボットのような動作が可能なものが出てきており、自動化自体を実現するものとしての違いはさほどありません。ただし、取扱商品の特性(サイズ、形状、耐久性、温度管理の有無、賞味期限の有無など)や梱包形態、取扱数量、入出荷の頻度などを踏まえつつ、どの工程のどの作業の課題に対応するための自動化設備の導入なのかを明確にすることで、どの機種をどのくらい導入するのかが決まってきます。設備投資資金に相当の余裕があれば、とにかく導入してみるという手もあるでしょうが、一般的にそのような企業はほとんどないと思われます。
ただ、実際には「せっかく導入した自動化設備を使いこなせていない物流現場は案外ある」(関根氏)というのも事実です。一方、生産現場である工場での自動化設備導入は生産ラインとの連動を緻密に計算して実施されており、自動化設備の導入効果を十分に享受しているところが多いようです。多種多様な製品特性をもつ商品を取り扱い、より高いサービスレベルを要求されるEC物流現場での自動化設備の導入ついては、設備提供側と物流現場側の深い相互理解のうえに実施されなければなりません。深い相互理解がない導入では、期待した導入効果が得られず、物流の増加に対応できない状況に陥り、さらなる市場拡大の妨げになってしまう可能性もあります。
EC物流は複数企業の様々な商品を取り扱うため、倉庫内オペレーションは複雑なものになります。EC物流でもその形態がBtoBかBtoCによっても異なります。BtoBではあらかじめ決められた拠点・店舗に商品を配送するスタイルですし、一方、BtoCでは未知の消費者の自宅に商品を配送するスタイルになります。
特に後者については、数多くの複雑なオーダーに対して迅速・正確に商品を届けるサービス体制が求められるため、より高度の物流システムを構築する必要があります。このBtoC-EC物流では「サービスレベルの向上と作業効率化のためには、倉庫内の各作業のタイミングや時間配分などが重要だが、これらに対応した機能を提供できる既製品としてのWMSはないように思われる。これに関しては、自社のこだわりもって物流の変革や改善へのチャレンジをすることにより、自社専用にスクラッチ開発されたWMSを導入している事業者の方がより早く的確に対応できるようになるだろう。このようにソフト面での効率化を進めるのと平行する形で自動化設備を導入することが成功のカギとなる」(渡邊氏)とのことです。
一方、自動化設備を効果的に稼働させることも簡単ではなく、「稼働を制御するため、PLC(Programmable Logic Controller)の限界寸前までのプログラミング処理が必要な場合もある。物流業界では、自動化設備を稼働させ、長期にわたって安定させるための難度の高いソフト技術の重要性に対する理解がまだ不足しており、少数派ながらこの点に理解が行き届いている現場はマテハン機器やロボットを導入しての自動化に成功している」(関根氏)ということです。
近年は、物流倉庫内作業を自動化するうえで、さらに付加価値を増した最新のマテハン機器やロボットの開発が進んでいます。ただ、これら最新設備・技術に対する物流現場の知見が乏しければこれら最新設備・機器を導入しての自動化は進みません。その点、三菱商事が提供する最新自動化設備の月額制倉庫ロボットサービス「Roboware」では、常に最新の設備・機器を導入することができますので、まずはこのサービスの利用を考えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
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